おまけ 南伸坊氏の体験談

 「あらゆる読書のうち、最も熱心に読まれるのは自分の病気に関する本である」と言ったのは私だ。いま言った。

 体験談なのである。

 

 私は「おもしろい」ことが好きで、それなのに読書は苦手なほうだ。著者の文章が上手で、イキナリひょいとこちらの心を掴んでくれるような本なら、読書も大好きだ。おもしろいからである。

 どうですか?この本はおもしろかったでしょう。この本の解説を注文されて、私は小躍りするような気持で引き受けました。安保先生の本を、私はいろんな人にススメているんです。おもしろいから。「人間は自分の体について知るのが好きだ。自分のことがわかるから」

 それで私は安保先生の本が好きだったのだが、それを読んでいるうちに、私はものすごい体験をしてしまった(といって、あくまでも自分にとってなんですけどね)。

 安保先生の本がおもしろくて、三冊目を読んでいたのは、大きい病院の待合室でした。実は血痰が出たのを主治医に訴えたところ、それは念のために大きな病院で検査してもらった方がいいです。ということになったんです。

 一週間くらい前だったか、採血をされ、X線や、CTを撮られて、いったんは「異常なし、大丈夫です」という電話が入ったのに、そのあとすぐに電話があって、指定した日時に病院にくるようにといわれたんです。それで、もう一度、CTを撮られに行った。

 待合室で、安保先生の本を読んでいたのは、その時なんですが、それはガンを疑われたからじゃなく、その前から単におもしろくて三冊目を読んでいたのです。

 指定の時間から、だいぶ待たされたうえ、やっと個室に入っていくと、CTの画像を見せられたりしながら、検査入院をするようにということでスケジュールが、どんどん決められていきます。

 私は先生のお話しをさえぎるようにして、

 「つまり肺ガンということですか?」

 と訊きました、いえ、というかと思って聞いたんですが、

 「の疑いがあるということですね」

 ということになってしまったんですよ。びっくりでしょう、びっくりだったんですが、先刻まで安保先生の本を熟読していたところですから、ともかく例のガンの三大療法だけは避けたい。と思った。

 その後、検査入院もしましたし、CTも何度か撮りました。始めに肺ガンの疑いがあると聞いた日から、私は即座に「ガンを治すための4ヶ条」を実践しだしました。

 1,生活パターンを見直す。

 2,ガンの恐怖から逃れる。

 3,からだが消耗する三大療法を受けない。

 4,副交感神経を優位にして免疫力を高める。

そうして、CTに映るカゲを、どんどん小さくして「なかったことにしてしまえ」と思ったわけです。

 夜更かしをピタリとやめた。カニの甲羅から作ったとかいう健康食品をのんで、体をあたためて、睡眠時間をたっぷりとるようにした。

 ところが、なんだか顔がゲッソリしてきて勘の鋭い友人からは「病気なんじゃい」とか「痩せたなァ」とか言われるようになりました。おそらくガンだといわれてビクビクしたのがストレスで痩せたんだと思います。

 担当医師からは、手術をすすめられ「開けてみてガンじゃないとハッキリすればラクになりますよ」ともいわれたけれども、ともかくもう少し様子を見たい、といいつづけました。CTの医師の所見に「いくぶん退縮が見られる」という意味のコメントを見つけた時には、うれしくて、先生に「このようにありますが」と言ってみましたが「いや、どうかな?」と冷たい。

 私は担当医師をギャフンといわすくらいにこのカゲを劇的に小さくしてやれ、と思ったんですが、そんなにちょいちょいCTを撮るのもどうかな、CTだって放射線なんだしなと思ったりで、ちょっと膠着状態。

 そんな間も、安保先生の本は次々に出て、それを一冊ずつスミズミまで熟読しました。自分の病気について知りたいというのがあるから熱心なんですが、安保先生の本はそれだけじゃない。

 患者に生きる力を与える、やさしさがあるんです。ご自身もガンを疑われた経験がおありで、その時の心細さがあるので、患者がどんな心理なのか、それを思いやって下さってるし、それだけでなく励まして下さる。

 

 この本を、患者の方やその家族に私が勧めたいのはここです。

 

 先生もおっしゃるように、それこそ三大治療をすすめるお医者さんも、マジメで熱心なお医者さんなのだ。

 しかし、自分のいる場所からズレてみる、違ったアングルから見てみる、いまの医学の常識を疑ってみる、ということはマジメなのでできない。患者の身になってみる、ということも、これはとてもむずかしいことだ、と私は思った。患者になって、なんだかとても腹が立ったりしたことがあった気がするけど、早く忘れてしまいたかったのでそれは忘れてしまった。

 私は半年間、ガン患者として暮らしたが、妻と姉以外にはこのことを誰にもしゃべれなかった。PET(陽電子放射断層撮影法)を受けてみたらどうか、と漢方の先生に提案された時、迷った。

 不思議な心理だ。自分は肺ガンだが、いま免疫力でこれを調伏している最中だ。まだやっつけられていないのにPETで、その状態がハッキリするのは、なんだかいやだなということか。実は全然ガンでも何でもないんじゃないか?という気持ちもあったらしい。

 結局、PETを受けてみると、CTに出た胸のカゲに重なる所に反応はなかった。

 私はホッとして、ガンから解放されたのだが、それではCTに映ったカゲは何だったのだろう。

 当時は「何でもなかった」と思いたかったので、それ以上に考えなかったが、いま思うには、あれはやっぱりガンだったんじゃないか?

 

結構ボリューミーな解説なので、次回に続きます・・。       温王子でした・・・