おわりに~文庫版あとがき~

 多くの人たちは健康と病気の境目を決定している理由を知らずに過ごしています。それは、ある意味成り行きまかせの運と不運の境界で生きているようなものです。しかし、病気の成り立ちははっきりしています。人間の能力の限界を越すような環境にさらされたり、無理をしたり、悩み続けるから病気になるのです。この辺の、病気に近づいた時の生き方の問題や心の揺れをこの文庫の解説で南伸坊さんが絶妙の筆使いで書いてくださいました。読者はここからも病気から逃れるすべをよく学ぶことができます。

 文庫化というこの機会に、最近の知見を述べてみましょう。大きなトピックは、老化とガンのメカニズムが明らかになったことです。私達のエネルギー生成系は、酸素のいらない「解糖系」と、酸素に依存した「ミトコンドリア系」の二本立てでできています。私達の先祖細胞(解糖系生命体)が二十億年前にミトコンドリア生命体と合体してできたことに由来しています。その名残として、今でもエネルギーは二つの方法でつくられているわけです。

 しかし、酸素の嫌いな生命体と酸素の好きな生命体ですから、解糖系の本体の方はだんだん酸化して老化してゆくわけです。これは、私達すべてに避けられない現象です。しかし、老化して死んでしまっては子孫が残せず命がとだえてしまいます。そこで、男性は精子(解糖系生命体)、女性は卵子(ミトコンドリア生命体)をつくり、二十億年前の合体をやり直しているわけで、これが受精です。

 解糖系生命体は分裂が盛んで、低体温と低酸素が好みです。ミトコンドリア生命体は分裂が少なく、高体温と高酸素が好みです。このため精子は陰嚢で冷やされて分裂し、卵子はからだの中で温めて成熟します。

 私達は子供時代は成長が盛んでやや解糖系寄りでエネルギーをつくっています。大人になると解糖系とミトコンドリア系が調和を保って生き続けています。しかし、大人の時期にあまり無理を続けると、交感神経緊張によって血管が収縮して血流が悪化し、低体温と低酸素になります。この条件下で生きるためには、酸素の嫌いな「解糖系生命体」で生きるしかないわけです。これがガン発生のメカニズムです。ガン細胞はミトコンドリアの数や機能を抑制し、解糖系で分裂し続ける細胞です。二十億年前に先祖返りして悪条件に適応したのがガンという病気なのです。

 こういう理解があると、そこからガンにならずに生きる方策が見えてくるでしょう。また、ガンになっても生き方の無理を止め、からだを温めて、深呼吸して、養生するとガンも生きづらくなって消滅するということがわかります。最新の研究についての詳細は、また新たに本にまとめたいと考えています。

 本書が、さらに多くの読者を得て、私の免疫についての考え方がさらに広く伝えられることを願っています。

 2008年5月      安保徹                代筆 温王子でした・・・