人間の複雑系を理解するためには

 養老孟子氏の本を面白く読んでいます。発想や物事を考える視点がとてもユニークです。そのなかで、複雑系と単純化の話に感ずることがあったので、この視点で人間と病気について考えてみたいと思います。医師が診察で接する人間は、複雑系だからです。

 複雑系を理解するためには、物事を単純化し、複雑系がどういう法則で成り立っているかを追求するのが本筋です。私の場合、その発想から生まれたのが、自律神経系と白血球系の捉え方でした。

 これらは興味深いことに、いずれも2進法で成り立っています。自律神経系は交感神経と副交感神経の拮抗で生体を調節していますし、白血球系は顆粒球とリンパ球の拮抗で生体を防御しています。さらに、交感神経と顆粒球が連動し、副交感神経とリンパ球が連動しているのです。

 つまり、複雑系は単純化を行うことによって、複雑さを維持しているのです。コンピュータも複雑な仕事をいろいろこなせるように進歩していますが、2進法を積み重ねて複雑さを成立させているのです。

 しかし、単純化するといっても、複雑な物事をただ分類しているだけでは意味がありません。分類すればするほど複雑さは増してしまうでしょう。養老氏も昆虫や植物を分類しているだけでは、複雑さから抜け出すことはできないと言っています。からだの機能を、細胞、細胞内小器官、分子、遺伝子と分類しているうちはデータだけが膨大になるばかりで、本質をつかむことはできません。臓器別の医学も同様です。そんなことばかりしていては、医学書がますます厚くなり、臨床検査の検査項目が増えるだけです。

 その逆が、人間の複雑系を理解するために、自律神経や白血球、さらには体温などに注目する流れなのです。なかでも体温は、低体温と病気の関連、通常体温と健康の関連から、極めて単純に病気の謎に迫ることができます。つまり、からだを温める方策を実践すれば、病気から脱却することができるのです。

 病気の状態から健康になる過渡期には、複雑なデータの変化を伴いますが、それは自らが行なっている生体の流れの断片を、私たちが目の当たりにしているということなのです。   以上です・・。

 

なんだか難しそうな「お題」でしたが、要は「からだを温めろ~」というオチでした。なんだか安保先生の言葉には、不思議な力強さと安心感を覚えます。ほんと、近くにいて欲しい(欲しかった)先生です。   温王子でした・・・